ハリウッド映画講座

 

 

テロリストを主人公として描くハリウッド映画はほとんどない。非戦闘員への大量無差別殺人をするテロ行為は絶対に大衆から支持されない。個人が多数の市民を無差別で殺害するテロリズムは工業的テクノロジーへの過度な依存によって実現する破壊行為であり、個々の標的の個人性を否定する現代史の流れに逆行した全体主義的な方法論である。

対してハリウッドは暗殺者、特に報酬を得る殺し屋をヒーローとして描く映画を制作し続けている。

個人が個人を殺す暗殺者/殺し屋にはいかなる形であれ標的の個人性を尊重し、追及する個人主義者としての理想的態度、1回の狩りで1頭の獲物を仕留める狩猟動物だけが持つ純粋な自然性への憧れ、生贄という宗教的観念が反映されている。

なおかつ建造物の爆破や、大量無差別殺人より比較的少ないコストと最小の犠牲で組織系統を崩壊させる暗殺は個人が実現できる最も現実的で効果的な反乱なのだ。

民主主義の次に現れる世界とは超個人主義であり、現代史の中に生きる人間はその理想と危険性のせめぎ合いの中で個人主義を維持、発展させる義務を背負っている。

暗殺者、殺し屋とは現代人の時代精神と本能が求める政治、自然、宗教の三つの要素によって支持された理想的ヒーロー像なのだ。